
「闇かご」と呼ばれた、ある“日用品”の記憶。
NagaoDaisuke
夏の畳の香り。
ふとした瞬間に漂うその香りが
どこか懐かしい気持ちにさせてくれる。
日本人にとって「い草」は
ただの植物ではなく
記憶の奥に静かに根を張る“素材”なのかもしれません。
そんな「い草」を使って
一つひとつ丁寧に編み上げられたハンドメイドのかご。
どこか無骨で、それでいて品がある
――このかごには
戦後の倉敷で生まれたユニークなルーツが存在します。
かつて、戦後の混乱期。
倉敷地方では、物資が限られていた時代に
人々が闇市へ買い出しに出かける際に
使っていたかごがありました。
密かに、しかし確かに
人々の生活を支えたそのかごは
いつしか「闇かご」と呼ばれるようになります。
倉敷の風土が生んだ、もう一つの必然。
実は、倉敷と「い草」の縁には
もう一つ深い背景があります。
かつて倉敷地方の一帯は
塩分を多く含んだ土壌に悩まされていました。
海に近く、水はけの悪い土地では
野菜や穀物といった一般的な農作物は
思うように育たなかったのです。
そんな環境において
人々が目をつけたのが「い草」でした。
い草には、塩分に非常に強い性質があり
根から土中の塩分を吸い上げ
地力を整えていくという働きがあります。
つまり、当初の目的は“素材”としてではなく
土地を浄化する植物として植えられていたのです。
ところが時が経つにつれ
そのい草が豊かに育ち
結果として倉敷は日本有数のい草の産地へと
成長していきました。
収穫された大量のい草を無駄にせず
日用品へと昇華させるために
い草を使った民具作りの文化が根付きます。
やがて、それは戦後の「闇かご」へとつながり
そして現代へ。
い草は単なる素材ではなく
土地の再生と生活の知恵を繋ぐ存在だったのです。
現在、その「闇かご」の精神を今に伝えるの
須浪亨商店・五代目 須浪隆貴さん。
伝統に敬意を払いながらも
時代に寄り添う形でデザインや用途をアップデートし
日常使いできる“用の美”を提案しています。
今回ご紹介するのは
浅めでスタンダードなサイズ感のいかご。
財布、携帯、サングラス、文庫本
──そんな“今日の必需品”が
きちんと収まる絶妙なボリュームです。
しかもこのかご、意外なほどユニセックス。
編み目の端正さ、い草ならではのナチュラルな質感
そして直線的なフォルムが
ジェンダーを超えてしっくり馴染みます。
スーツ姿の男性がサラリと持っても様になる
そんな稀有な存在です。
そして素材としての
「い草」にも、もう少し耳を傾けたい。
い草は古来より日本の湿潤な風土と共に歩んできた素材。
吸湿性や抗菌性に優れ
自然の中で生まれた“機能美”を持っています。
現在では生産者も減少していますが
倉敷ではその文化を絶やすまいと
い草を用いた工芸が静かに息づいています。
須浪亨商店が拠点を構える倉敷は
古くから繊維と民藝の町として知られ
柳宗悦らの民藝運動の影響も色濃く残っています。
量産ではなく、一つひとつ“人の手”によって
つくられるものへのまなざしが
今また静かに再評価されているのです。
最後に、ひとさじの遊び心も忘れずに。
お気に入りのワッペンやピンズ、キーホルダーなどで
さりげなく自分らしくカスタマイズして。
和の伝統と洋のエッセンスをミックスしたスタイリングは
あなたの装いに“ちょっとした物語”を加えてくれるはず。