
ミリタリーの知と美の再構築
NagaoDaisuke
ウエストポイントと聞いて
ピンと来るのは軍人養成校の名前だろう。
しかし、ファブリックの世界では
「West Point」はひとつの哲学だ。
高密度、上品な光沢、そして堅牢さ。
米国陸軍士官学校の制服にも使われた
このクラシックな36番双糸(36/2)使いの
ウエストポイントクロスは
まさに"オフィサークラス"の生地なのだ。
そんな格式高い素材に
今の空気を通したのがこのシリーズ。
バイオ加工で微細な毛羽を落とし
手に吸い付くような柔らかさを加えながらも
そこに反発加工を重ねるという
アクロバティックな手法で
まるでパリッと焼き上げたブリオッシュのように
外は張り、中はしなやかというテクスチャーが
生まれた。加えて
独特の光沢感がエッセンスとして残る。
これはもう、「布」というよりテクスチャーアート。
このファブリックを纏うプロダクトは2型。
以前に書いたショーツと
今回に注目すべきベスト。
そのインスピレーション源となったのは
1960年代末〜70年代初頭にかけて
米軍が採用した
M-69 フラグメンテーション・プロテクティブ・ベスト。
いわゆる防弾チョッキの祖とも言える存在だが
このモデルではその重厚な面影を削ぎ落とし
衿を排除。ミリタリーの"武装"という概念を
再定義するように
身を守る服から、空気を纏う服へと生まれ変わらせた。
脇を大胆に開けた構造は
ベンチレーションとしての機能性はもちろん
レイヤードしたときのシルエットに独特の抜け感を与える。
タブとバックル、そしてスナップボタンという
最小限のディテールだけを残し
「必要なものだけを削ぎ落とす」という
逆説的アプローチが光る。
武骨さの美学と、機能の合理性が溶け合った結果がこのベスト。
いわばこれは
クラシックテキスタイルの技術的アップデートと
ミリタリーギアの哲学的再構築のクロスオーバー。
作り手の知見と情熱、素材への偏愛が一体となり
プロダクトに昇華した。
この服はただのベストではない。
"着るアーカイブ"であり、未来への参考文献となる。
roundabout / Full Zip Vest / ¥31,900-(tax in)
このベストを着て
店頭で自身の
3分LOOKINGを作成してみた。
「抜け」と「重み」の間にある、静かな抵抗。
ミリタリーの再解釈と
ストリートの温度感が共鳴するスタイル
ルックにおいて自身が最も難しいと感じるのは
「何もしていないように見せて、すべてを計算している」こと。
まさにそのバランスを常に意識している。
主役は、言わずもがな
U.S.ARMYのM-69フラグメントベストをベースに
再構築された一着。
淡いサンドベージュのボディが
ミリタリーアイテムにありがちな重苦しさを回避し
中に着たダークトーンのワイドTシャツと
絶妙なコントラストを生むようにチョイス。
オーバーサイズなシルエットも
武骨というより余白と余裕を意識。
そこに合わせたのは
リーバイスのアクションスラックス。
ほどよい色褪せとラインの太さが
トップスのボリューム感と調和し
武骨になり過ぎないように
洗練され都市生活に馴染むよう意識。
気にせずにガンガン着用できるのに
ちゃんとしたい時にまで
合わせられるボトムス。
足元にはクラシックなVANSのチェッカースリッポン。
このチョイスがポイントと自身は思う。
ミリタリーとストリート
クラシックと日常
あらゆる境界線を跨ぐことで
このコーディネートは
「無理していない」のに芯があるという
矛盾を内包したまとまりを体現している。
そして
もう一つのキーが、色味を差すように
加えられたレッドキャップ。
この「赤」の選択もまたポイント。
ベージュ、ネイビー、グレーという無彩色トーンの中に
わずかな温度を与えることで
静かな主張が完成する。
シンプルでいて、奥行きがある。
そう、語りすぎない余白を感じる
日常のスタイルの完成である。